快適な住空間をつくるためには、自然光を取り込める窓のサイズや設置場所を工夫することが大切です。建築基準法では、居室には採光のための窓が必要と定められています。
しかし、「部屋にどのくらいの窓が必要なのか知らない」「どの程度の採光が必要なのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
住まいの窓について考えるときには、法律で定められた採光を確保できているかどうかをチェックしておくことが重要です。
そこで、本記事では居室に必要な採光と法律で定められた明るさを確保するための採光の計算方法について解説します。
建築基準法による採光面積・採光補正係数について
建築基準法では、人が暮らす居室には一定の自然光を取り入れることが定められています。
以下のように、住宅の居室には一定の基準を満たした採光に有効な開口部(窓)を設置する必要がある(有効採光面積)とされています。
第二十八条 住宅、学校、病院、診療所、寄宿舎、下宿その他これらに類する建築物で政令で定めるものの居室(居住のための居室、学校の教室、病院の病室その他これらに類するものとして政令で定めるものに限る。)には、採光のための窓その他の開口部を設け、その採光に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、住宅にあつては七分の一以上、その他の建築物にあつては五分の一から十分の一までの間において政令で定める割合以上としなければならない。
最低限必要となる窓の大きさ(有効採光面積)については、住宅の立地や隣家との距離などの条件によって変わります。有効採光面積は窓の面積(W)×採光補正係数(A)で求められます。
有効採光面積
有効採光面積とは、採光に有効な窓の大きさのことをいいます。
建築基準法では、部屋の用途に応じて必要な有効採光面積が定められています。人が暮らす住宅の居室には、床面積の7分の1以上の有効採光面積が必要です。
採光補正係数(A)
採光補正係数(A)とは、光の入りやすさを示す数値です。
隣地境界線からの距離や用途地域などを考慮して算出します。
住宅の採光のために必要な窓の大きさ(有効採光面積)を考える際は、窓の設置条件を考慮した採光補正係数を計算することから始めることになります。
採光補正係数の計算方法
採光補正係数は、用途地域や窓面の軒からの距離などをもとに算出します。
ここでは、採光補正係数の計算に必要な採光関係比率、“D”と“H”について先に解説します。
DとHの求め方
採光補正係数の計算式に含まれる“D”と“H”とは、採光関係比率のことを指します。
採光補正係数を求めるにあたって必要な数値となっており、それぞれ以下の距離を算出します。
▼DとHが示す距離
D:開口部(窓)の真上にある軒から隣地境界線等までの水平距離
H:窓面の高さの中心から、軒までの垂直距離
隣地境界線から窓の上部の軒までの距離(D)が長く、窓から軒の距離(H)が短いほど、採光上有効な窓となります。
採光補正係数の計算式に含まれる“D/H”は、以下のように求められます。
▼D/Hの求め方の例
窓の上部の軒までの距離(D):3m
窓から軒の距離(H):2m
D/Hは3/2となります。
採光補正係数の計算式
DとHが何を示すかを理解したところで、採光補正係数の計算式について見ていきましょう。
採光補正係数を求めるための計算式は、住宅の用途地域によって異なります。
住宅の用途地域は住居系地域・工業系地域・商業系地域の3つに分類されており、それぞれの計算式は以下のとおりです。
▼用途地域ごとの採光補正係数の計算式
住居系地域:D/H×6-1.4
工業系地域:D/H×8-1
商業系地域:D/H×10-1
採光補正係数の数値が小さくなるほど大きな窓が必要です。
反対に、採光補正係数の数値が大きくなるほど、小さな窓でも有効採光面積を満たせます。
上記の計算式を踏まえると、住居系地域のほうが工業系や商業系よりも採光補正係数が小さくなり、より大きな窓が求められることが分かります。
なお、採光補正係数は最小値が0、最大値が3です。計算の結果、マイナスとなる場合では採光補正係数は0、3を超える数値となった場合でも3と見なします。
採光補正係数の数式例
D/H=3/2になるケースにおいて、住居系地域を例にした計算式は以下のとおりです。
▼採光補正係数の数式例
採光補正係数=(3÷2×6)-1.4=7.6
計算では7.6という数値になりますが、最大値は3と決まっているため、このケースの採光補正係数は3です。
採光補正係数を用いた窓面積(W)の計算方法
採光補正係数を算出した後は、部屋の広さに対して必要な窓面積を算出できます。
部屋の広さが異なる3つのパターンで必要な窓の大きさ(W)を求めてみましょう。
▼前提とする条件
壁の広さは同じD/H=3/2(採光補正係数は3)とする
住居系地域の場合
有効採光面積は1/7×床面積(S)以上とする
畳(中京間)より、m2(平米)の概算を算出 6畳:9.9m2 12畳:19.8m2 18畳:29.7m2
▼窓面積(W)の計算式
有効採光面積=窓面積(W)×採光補正係数(A)≧1/7×床面積(S)
窓面積(W)≧1/7×床面積(S)÷3
【計算例】6畳に必要な窓面積(W)
窓面積(W)≧1/7×9.9m2÷3
窓面積(W)≧0.47m2
0.47m2以上の大きさの窓が必要となります。
【計算例】12畳に必要な窓面積(W)
窓面積(W)≧1/7×19.8m2÷3
窓面積(W)≧0.94m2
0.94m2以上の大きさの窓が必要となります。
【計算例】18畳に必要な窓面積(W)
窓面積(W)≧1/7×29.7m2÷3
窓面積(W)≧1.42m2
1.42m2以上の大きさの窓が必要となります。
住宅採光の緩和(2023年4月1日施行)
2023年4月1日より施行された建築物省エネ法の改正において、住宅採光の基準が一部改正となりました。概要は下記となります。
住宅の居室に必要となる採光上有効な窓等の面積のその床面積に対する割合は、1/7以上を原則としつつ、照明設備の設置により、1/10までの範囲内とすることができることとする。
緩和のために必要な照明設備の具体的な条件としては、居室の床面すべてにおいて50ルックス(lux)以上の照度を確保する必要とされています。
また、申請書類には電気設備の詳細図等に照明設備の設置位置や50ルックス以上の照明設備を設置する旨の明示が必要です。
本内容についてより詳細に知りたい方は、上記の出典をご確認ください。
採光を計算するときの注意点
法律で定められた採光規定を満たすことは確かに重要です。
ですが、採光に有効な面積の窓を取り入れても、立地によって十分な日当たりが得られないケースもあります。
また、同じ大きさの窓でも部屋の方角や周辺の建物などによって明るさは変わります。
さらに、窓を多く設置したものの、周囲からの視線が気になり、なかなか窓を開けられないといったケースも考えられます。
自宅に必要な採光を計算するときは、日差しの向きや周辺環境などを考慮しつつ、部屋の用途やライフスタイルに合わせて窓の位置・サイズを選ぶことが大切です。
採光と日当たりの違いについてこちらをご参考ください。
部屋の日当たりをよくするには“天窓”もおすすめ
建築基準法に基づいて窓を設置したものの、日当たりが得られないという場合には天窓の設置が有効です。
天窓は頭上から自然光を取り込めるため、日中は長時間の採光を得られるほか、夜間も月の明かりを取り込めます。
住まいの広範囲に光が届くことにより、明るい住空間を実現できます。
また、近隣に住宅が密集している場合でも屋根面に設置する天窓であれば、通行人や近隣住民からの視線が気になりにくくなります。
家の中から空や風景を望めることで、視覚的に広く感じられ、空間に開放感をもたらすことも可能です。
「通常の窓だけでは暗くなってしまう」「方角や周辺環境に左右されずに明るさを確保したい」という場合は、天窓の設置を検討してみてはいかがでしょうか。
天窓が直接つけられない1階のお部屋については、天窓の光をダクトを通して部屋に届ける“光ダクト”もぜひチェックしてみてください。
光ダクトを使った採光面積への加算について、国土交通省に申請中です。
進捗状況をはこちらをご参考ください。
まとめ
リビングや寝室などの居室では、一定基準以上の大きさの窓を設置して自然光を取り入れることが建築基準法で規定されています。
採光補正係数を算出することで、部屋の大きさに応じた必要な窓の大きさを求めることが可能です。
今回ご紹介した計算式をもとに、住まいに必要な採光について考えてみてはいかがでしょうか。
ただし、法律の基準を満たしていても窓の位置や立地によっては明るさを得られないケースもあります。
「ただ窓を大きくすればよい」といった考え方ではなく、部屋の用途や周辺の環境に応じて、窓の位置や種類を検討することも必要です。
「掃き出し窓や腰窓だけでは十分な採光が得られない」「大きな窓は外からの視線が気になる」という方は天窓の設置もぜひご検討ください。
住宅採光の緩和によって、同じ程度の日当たりの窓であれば、窓を小さくすると確実にお部屋の明るさも低下します。建築基準法上の採光規定を満たすとともに、暗くなってしまわないようにご注意ください。