夏の晴れた日は、自動車の車体や道路の路面、公園のベンチの表面など、太陽光に照らされているところの温度は気温以上に上がります。
住宅でも、太陽光による屋根や壁、あるいは、窓周辺の温度上昇の対策をしなければ、冷房の効きが悪くなって電気代が高くなったり、熱中症によって体調を崩してしまうことも・・・。
最近、多く言われるようになってきた「遮熱(しゃねつ)」について、その意味について説明し、住宅で使われている遮熱を利用した製品もご紹介します。
遮熱に関する基礎知識
遮熱とは?
遮熱(しゃねつ)とは、太陽などの熱源から発生する熱放射(ねつほうしゃ)を遮断することを言います。
熱は、暖かい物質から冷たい物質へ移動し、全体が均一になろうとする性質があります。
このとき、熱を伝えるための手法の一つが、熱放射、あるいは熱輻射(ねつふくしゃ)ともよばれている現象です。
熱放射は、目に見えない電磁波によって生じ、この電磁波は一般的に赤外線や遠赤外線とよばれています。もっとも身近な例が、太陽です。
地球と太陽は、真空の宇宙で遮られていますが、熱放射によって太陽の熱は地球まで届いているのです。
つまり、この熱放射という目に見えない電磁波を遮ることが「遮熱」なのです。
遮熱と断熱の違い
遮熱と断熱は、共に熱移動を抑制することを指す言葉ですが、この違いは、熱移動が接触によるものかどうか、ということです。
本来の断熱の意味としては、放射熱を含むすべての熱移動を抑制することを指しますが、最近では遮熱と断熱を区別するためにこのように表されています。
遮熱は、熱放射を遮断して熱移動を抑制することです。
熱放射は、太陽と地球の例で示したように空気を含む物質が接触していなくても熱移動させることで、接触していない物質間の熱移動を遮断することとなるのです。
一方、断熱が対象とする熱の移動は、2つの物体が直接接触している状況です。空気も物質の接触も含みます。
身近な具体例としては、内部の温度を保つ冷蔵庫やクーラーボックス、あるいは、手が直接熱いものに触るのを防ぐ耐熱手袋などにも、断熱するための部材が使用されています。
また、温度差のある屋外の空気と室内の空気を仕切る壁や窓も、断熱の役割を果たしています。
実際には熱の移動はもっと複雑ですが、住宅においては、熱放射による熱移動を抑制することを遮熱、温度差がある空間や物質間の接触による熱移動を抑制することを断熱、と考えましょう。
遮熱の方法と効果
遮熱として熱放射を防ぐ方法ですが、原理としては非常に単純で、太陽やその他の熱源が直接見えないように壁や膜などで遮るだけです。
熱放射として生じる電磁波は、光の性質を持っているため、熱源から真っ直ぐに飛んできています。太陽が壁の裏側からではと見えなくなるように、放射される熱も直接さらされなければうけなくなります。
また、直接見えなくしなくても、熱放射として生じる電磁波に対して遮蔽する効果があればよいため、透明な材料でも遮熱効果のある部材となりえるのです。
ただし、遮熱材が太陽の熱放射によって高温になってしまうと、その遮熱材自体が熱源となり、熱放射を発生させてしまいます。
そのため、効果の高い遮熱材として利用されている製品は、その放射された電磁波を吸収せず、反射させるような仕組みになっているものがほとんどです。
また、簡易な遮熱材として、電磁波を反射させずに吸収させても、温度が上がりにくいような材料構造になっている製品もあり、状況や効果によって様々な利用法があります。
遮熱を利用した製品
「Low-Eガラス」
住宅で遮熱を利用する最も有効な製品の一つが、窓ガラスに利用される「Low-Eガラス」(ローイーガラス)です。「Low-E」とは、「低放射」という意味です。
通常の窓ガラスは、太陽の熱放射による電磁波を透過するため、その多くが室内に入ることで室温が上がってしまいます。
一方、「Low-Eガラス」は、熱放射による電磁波の多くを反射します。
そのため、室温が上がりにくくなります。明るさもわずかに落ちてしまいますが、太陽の直射光が入るときは、それほど暗さは感じないかと思います。
また「Low-Eガラス」は、断熱性を上げることで、冬場の結露を防止する効果を持ちます。
さらに屋外の建物や地面からの冷気の放射を遮るとともに、室内の暖かい壁や床、住む人からの熱放射を屋外へ逃がさない効果が得られます。
屋外の温度の影響を受けやすい窓の性能を高める製品が、「Low-Eガラス」なのです。
「遮熱塗料」
「遮熱塗料」は、屋根や外壁に塗ることで熱放射による電磁波の反射しやすくし、屋根や外壁の温度上昇を抑える効果があります。
完成後やリフォーム時に塗装する「遮熱塗料」として使用する場合や、「遮熱塗料」を塗装した製品で住宅に設置される場合もあります。
「遮熱塗料」は、太陽光による屋根や壁の温度上昇を抑えることで、室内に伝わる熱が少なくなるため、夏の暑さがやわらぎます。
ですが一方で、冬場に太陽の暖かさを取り込みにくくなってしまいます。
基本的に屋根は、夏と冬の太陽高度の違いによって夏の方が遮熱効果が大きくなり、冬の効果は小さくなる傾向があります。
夏暑くなりがちな地域では、「遮熱塗料」も十分な効果が期待できます。
最近では、屋上やバルコニーに芝生や植物を設置したり、テラスのように利用したりする住宅も増えていますが、そのような屋外を利用する場合にも床面を「遮熱塗料」を使用して遮熱し、夏場の温度上昇を抑えるのは効果的です。
「遮熱シート」
「遮熱シート」は、太陽光の遮熱ではなく、屋根や壁の内側に入れることで、屋根や壁の熱や冷気を室内まで通さないようにするための薄いシート状の建材です。
通常の「遮熱シート」は、電磁波を反射するためのごく薄いアルミフィルムと、断熱性やシート強度を上げるためのプラスチックシートを貼り合わせたような構造になっています。
最近では、通常の住宅建材である雨漏りを防ぐ防水シートにアルミフィルムを貼ることで、遮熱機能を持たせた製品もあります。
「遮熱シート」は、数~十数mm程度と薄いため、屋根や壁の厚さや外観に影響を与えずに、住宅をすっぽりと覆うように設置することで、熱や冷気が屋外から入ってきにくく、室内から逃げにくい住宅になります。
ただし、「遮熱シート」は、断熱性能がそれほど高いわけではないので、通常の断熱材と合わせて使用する必要があります。
しかし、遮熱による認識がまだそれほど高くなく、また、設置にもある程度のノウハウが必要のため、工務店や設計事務所でもまだ一般的ではないようです。
「外付けブラインド」
「外付けブラインド」は、窓やガラス壁といった太陽光が入りやすい部分の外側、つまり屋外に設置するブラインドです。
通常のブラインドは室内に設置するのが一般的ですが、「外付けブラインド」のように屋外に設置することで、太陽光が室内に入る前に遮熱し、ブラインド自体の温度上昇の影響を小さくできます。
日本でも、すだれやよしずといった、夏に窓の外側で、太陽の日差しを遮る工夫がされていましたが、原理は一緒です。
「外付けブラインド」は、基本的に内側から操作できるため出し入れの手間が少なく、収納場所も必要ありません。
しっかりと固定されているため、落下したりする心配もほとんどありません。
西日が入って暑くなってしまう窓や、庇などがない窓などに「外付けブラインド」を設置と効果的です。
遮熱の考え方を取り入れたエコハウス「そらどまの家」
一般社団法人 エコハウス研究会は、省エネと住む人の快適性を両立させた「そらどまの家」の考え方を提唱しています。
「そらどまの家」では、断熱だけでなく、遮熱や熱放射の考え方を取り入れています。
ただ断熱材を多く入れて性能を上げるのではなく、遮熱も合わせて住宅の温度環境を考えることで、それぞれの地域に合わせた家づくりに取り組んでいます。
また、エアコンではなく熱放射を利用した冷暖房器具や調湿建材による快適な湿度管理や、独自の換気装置を使った住宅の健康についても配慮しています。
新築住宅をお考えの方や工務店の方で、遮熱を使った家づくりにご興味があればご参考ください。
まとめ
「遮熱」とは、熱放射という目に見えない電磁波を遮ること
遮熱は、住宅において「Low-Eガラス」、「遮熱塗料」、「遮熱シート」、「外付けブラインド」などで利用されている。
暖房・冷房に頼りすぎないように、電気を使わない遮熱を利用して、住宅自体の性能を上げることも考えてみてはいかがでしょうか。